朝もなく夜もなく、物心ついた時から一心不乱に鍛え上げし己が肉体。木を折り鉄を曲げ瓶を断ち切る凶器と成した。男は長年の鍛錬の結果に慢心することはなかったが、やはり男として、武道家として、喜ばしくはあった。周りの人間が遊興に耽りし時も砂袋を巻き藁を木の板を叩き、己の体を苛めぬくことで磨き上げて来た宝石。更に磨きをかけるつもりではあったが、その輝きの美しさに、僅かではあるが心を奪われていた。一方ソ連は拳銃を使った。ぱんぱん。男は死んだ。
あるいは。生まれし時より光を奪われ、闇を友に生き長らえてきたこの身なれば、いかな音とて聞き分けてみせよう。目明きが囚われる闇の中、一里先で落ちる針の音すら聞き分ける目暗の我と、いずれが目明きかわからぬな。いざ尋常に、とはとても言えぬが、目明きに生まれし己が不幸を嘆くが――。一方、ソ連スタングレネードを使った。ばーん。うわ耳が、あれ世界が真っ暗だよ。ぱんぱん。男は死んだ。
こんな感じの話が好き。身も蓋もないというか、効率重視というか。