ヤングアニマルの付録が

甘詰留太の短編集で、その中に収録されていた「きっとすべてがうまくいく」を久しぶりに読んだ。
一時ネットでちょっと話題になったあれ。
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久しぶりに読んで思ったのは、リスクを負わなければリターンは得られない、っていうお金の話。銀行預金っていうかタンス預金。資金をリスクにさらさなくともインフレでその価値が減じるように、現実でも年を取るごとに能力や魅力やどんどん減っていく。しかしそれでもさらさない。
ま、恐怖だよね。そこにあるのは*1。評価損というか、そもそも評価されることに対する恐怖。未公開株とか、駄サイクルに近いから、自分から何もしなければ、外の市場に参加しなければ、どんだけのポンコツ物件なのかわからない。
ジャンク品と一緒。通電すらしないポンコツでも、ジャンク売り場にあれば、もしかしたら通電するかもしれないプレミアムがついてちょっと値段が高くなるように、そもそも市場に参加しなければ、もしかしたら自分は本当はやればできるのかもしれないプレミアムがついて、心の安寧が得られる。市場に参加していないのでジャンク的な値段はつかないけど、心の中では、自分だってやる気になれば、本気をだせば、できるかもしれないプレミアム補正によって、過大評価。結果、心の安寧が。
ってそれは駄サイクルの方か。こっちの助教授の場合は、まあ、やっぱ怖いからだろうなあ。途中、自分のことを好き好き言ってくる20歳下の大学生が、モテモテ助教授にアタックをかけられるのを見て、主人公は我に返った、と述懐して、彼女と距離を置き始める。そして裏切られるのは辛いから最初から期待しなければいいんだメソッドを取る。ま、要するに逃げる。だってそういう生き方をしてきたんだもの。いままでは。
最後は必死で自転車こいでモテモテ教授に食われてないかと心配になった彼女を助けにいく。結果彼女は無事。よかったよかった。なにが?

全てがよかった …彼女に何事もなかったことだけでも
でも何よりオレが… こんな夜中に衝動にかられてペダルをこげたってことが… よかったんだ

もう四十という手遅れな歳だと、何かをするにはもう歳をとりすぎてしまったと考えていた主人公が、汗だくで息を切らし、衝動にかられてペダルをこげたってことが。
なろうと思えば、成功するかどうかはともかく、芸術家だって芸人にだってなれるし、今の今から思い立てば、明日の今頃にはアフリカだろうとメキシコだろうと行ける*2。その衝動を行動に移すことで、何にだってなれるし、どこへだって行けるという、風通しの良さを手に入れられたことがよかったよねーっつー。自分には何もできやしないんだというあのどん詰まり感こそが人を殺すからさ。

*1:お金の場合は自分のものが失われていく恐怖とかそこらへん

*2:パスポートあれば