悪いことはなぜ悪いのか

それは「悪いこと」とされているから悪いこととなる。例えば義理の兄妹とは言え兄妹なんだから不健全だ、というSSがあった。一般的に言われるような、遺伝上の問題という観点から言えば何ら問題がないと思われるのにもかかわらず、不健全だからダメだと言う。
それはなぜか。勿論、社会的不安を増大させるとかいった類の理由ではない。不健全だからダメだと言った彼らはそんなことを思っておらず、そのちょっと前までは遺伝的な理由によってダメだと思っていたからだ。しかし遺伝的な理由は解消されたのにもかかわらず、彼らはそれを不健全だからダメだと言い続けた。その理由はなぜなのかという話。その理由は当然、悪いこととされているから悪いのだ。
悪いことであるという認識を持っている以上、当事者達もそれを悪いこととして受け取る。他人同士なんだから別に何の問題もない、普通のカップルと何ら変わることがないにもかかわらず、兄妹間の恋愛は不健全だという認識を持っている限り、それを不健全なこととして受け取ってしまう。考えられる理由、遺伝的な問題だとか、社会的な問題だとか、それらを一つ一つ論破していったところで、その影は消えずにいつまでも付きまとう。あたかも呪いであるかのように、それはその認識を持つ彼の心に影を落とし、その負い目は消えることがない。
もし仮に彼の伴侶が全くの異文化の人間だったらどうなるか。彼の苦しみは理解されない。なぜなら彼女にとっては、たとえ実の兄妹だとしても、愛する者と結ばれることは何ら悪いことではないんだから。故に彼がいくら説明しても理解されない。遺伝的な問題、社会的な問題、そういった理由をいくら説明しても彼女は理解できない。
なぜなら上の上の段落で、彼が悪いことの理由と思われることを論破していっても悪いことだという意識が消えなかったように、悪いことの真実はそういったもっともらしい理由の中にはないのだから。悪いことの真実はそれが「悪いこと」とされている所にある。だから彼はそれを論破できないし、いくら説明しても異文化の彼女には理解できない。彼女にとってそれは、悪いことの真実、「悪いこと」とされてはいないんだから。