リンゴ

リンゴが二つある。aとb。aはまだ青く机の上にある。bは真っ赤に熟れててイスの上にある。さて。この二つのうち、aのリンゴに名前をつける。安易にリンゴスター。この時、何をもってリンゴスターとされるのか。
例えばaとbの位置が入れ替わり机の上にbが乗ってたとする。机の上にあるbはリンゴスターか。否。机の上にあるからといってリンゴスターではない。では、aが熟れて真っ赤っかになったとする。aはリンゴスターではなくなるか。否。真っ赤に熟れて色が変わったとしてもそれはリンゴスターである。ならばと、aをリンゴスターと名付けた時と全く同じ性質を持つcを持ってきて机の上の全く同じ位置に置く。cはリンゴスターと言えるか。否。全く同じ性質であってもそれはリンゴスターではない。もういいと、リンゴスターと呼ばれるaを消滅させてcを出す。aはもうない。aと同じ性質のcがある。cはリンゴスターであるか。否。リンゴスターはもういない。
と、まあ、当たり前すぎる程に当たり前の話だけど、なんとなく。じゃ、何がリンゴスターなのかっていうと、ある瞬間にそこに存在していたリンゴをリンゴスターと名付けた瞬間に、リンゴスターが生まれたわけだよねっと。だから、どんなリンゴも代わりにはなれない。なぜなら性質や位置によってリンゴスターとされているわけじゃなく、ある瞬間に存在していたリンゴが、お前はリンゴスターであると名付けられたから、リンゴスターであるわけだから、もし仮に熟れて腐ってもそれはリンゴスターだし、誰かに食べられてなくなったとしても、リンゴスターと名付けられた存在は今はいない、という形で存在し続けるわけだから。
要するにデータベースに登録するようなもん。はーい、2008年8月19日の17時38分にどこそこの座標にあったリンゴという存在をリンゴスターという名前で登録しますよー、っと。そしてそのデータベースは一人の場合もありえるけど、集団で共有する場合もありえる。まあ、社会とか世間とか。だから、性質を基準にしてもリンゴスターに成り代わることはできないけど、データベースをハックすれば成り代わることは当然できる。例えば一人の場合は簡単に、誰かが催眠術をかけて全く違う目の前に置いてあった缶にリンゴスターと名付けたという記憶を植え付ければリンゴではなく缶がリンゴスターになるし、多数で共有している場合は、現実的ではないけれど、全員にその手順をやれば同じようなことがありうる。10年以上前にネットをテーマにした映画で、敵対する組織に、政府か何かのデータベースにある自分のIDを書き換えられてて、誰も自分を自分として、例えばメアリーとして、承認してくれない、名無しの権兵衛になっちゃったYO!って話があったけど、まさしくそんな感じで。
まあ、そんな感じで、こんな感じ。ところで、いっつも思うけど、セブンイレブンの焼き鳥はもうあれ焼き鳥じゃないよな。カップ焼きそば焼いてないんじゃんってつっこみが好きじゃない自分でも、時と共に言葉は変わり焼いたそばではなくソース味のそばが焼きそばってことになっただけじゃん、とか思ってるくせに、セブンイレブンの焼き鳥を食う度に、これは焼き鳥じゃないだろとか思っちゃう。