礼は礼とされているから礼

まあ当たり前な話なんだけど、たとえば鼻くそを穿りながら挨拶することが礼という共通認識があれば、それが礼だし、その礼を取らないということは、鼻くそをほじらないということは礼を失する態度ってことだよねっと。礼とされている行為自体に意味があるんじゃなく、礼とされているということに意味があるんだから、基本的に行為自体は無意味でも全然問題ないし、そこは全然重要じゃないよねっと。じゃあ何が重要かっていったら、その無意味な行為を、敢えてすることができるかどうか。己に克ちて礼とされている行為を取ることで、規範を有していること、己を律することができることを、示すことが重要なんだから。
まあ本当に当たり前な話なんだろうけど、原点とも言えるような原典に、書いてるとは思わなかったから、書いてみた。恭にして礼なければ則ち労すの下りとか、克己復礼の下りとか、そういう意味合いかなって思ったんだけど、どうなんだろ。そういえば前に、ネクタイ締めてる時に、芥川の河童的な異文化で、全く違う、奇妙な礼があったらどんなんかなって考えたことがあったな。
おい河童。何だ人間。どうして出かける前はいつも頭の皿を拭くんだ?水がびちゃびちゃ頭から滴っていたら失礼だろ?そんなもんか?そんなもんさ。でも河童は皿が乾くと死んじまうんだろ?ああそうさ、だからこうして瓢箪に水をたっぷり入れて持ち歩くのさ。へえそれで乾いたら水をかけるのか。違うよそんな恥知らずなことができるもんか、手拭いに少しばかりの水を含ませて、皿を湿らせるのさ。面倒だねえ、夏場なんか大変じゃないのかい?おとついも一匹倒れたよ、手拭いとは言え人前で皿を濡らすのは失礼なことだから、なかなか湿らすことができないからね。河童ってのはわからないもんだねえ、倒れるくらいなら最初からびちゃびちゃかけてもいいことにすれば合理的なのに。礼儀だから仕方がないさ。理解に苦しむね。そんなことを言うなら人間、君たちの文化の方が僕らからしたら理解に苦しむよ。何だい何だい?ほら前に君が言っていた「ねくたい」というやつだよ。ネクタイがどうかしたのかい?何でも君たちは首に紐をぐるりときつく結びつけるらしいじゃないか。そうだけどそれがどうしたんだ?自分の首に紐をきつく巻くだなんて正気の沙汰とは思えないよ、考えるだけでも寒気がする。そんなもんかい?しかもゆるく締めてたら礼儀知らずになるそうじゃないか。ああ確かにそれは礼儀がなってないね。それに夏場なんか体に沿って作られた布を身に纏った上にそれを締めなければ駄目というじゃないか。まあ礼儀だからね。そんな君らの方が常軌を逸してるんじゃないかと僕には思えるよ、だって僕らは確かに皿を湿らせることには、君たちの言葉で言えば、合理的じゃないかもしれないが、格好は見ての通り裸だからね、どちらかと言えば真夏にそんな格好をして首を絞める方が、異常だとは思わないかい?そんなもんか?そんなもんさ。
って、長い。まあ、そんな感じのことを考えてた。どんだけ嫌かってのがよくわかる。