垢抜けない音大生の娘が

今まで夢だったグランドピアノを諦め、変わる決心がついたと今まで着たことのない派手な服を着て、美容院でソバージュをかけて、ナンパしてきた美容師と一緒にディスコへ行く。でも口説いてくる美容師の話がつまらないのでみんなが楽しそうに踊ってる中で踊りに行く。

楽しまなくっちゃ…!!
みんなと同じように
…楽しむの…!!
楽しむの…
……楽しむのよ!

彼女はみんなと同じように踊る。楽しそうに踊るみんなと同じように踊る。しかし彼女は楽しめない。

楽しい……!?
……楽しいわよ!!
本当に楽しいの…!?
……楽しいわよ!!

ディスコから出た彼女は自分が欲しいと雨の中土下座して全財産を鞄に詰め込んで持ってきたいい歳した男のことを思い出す。負けたくないから見守ってくれと土下座した男のことを。彼にはあった本気がここにはない。真剣さがここにはない。彼女は逃げないと心に決めてバイト先の酒場でピアノを弾く。
と、まあ、久しぶりに読み返した月下の棋 士の話。面白いねやっぱり。変態の展覧会やーって感じだけどそれを抜きにしても十二分に面白い。そんな中で彼女の話。読んでて思ったのはこれ幸せに置換しても一緒だよなっと。結局の所、自分を信じられないから、人が楽しいらしいこと、幸せらしいこと、っていう判断基準に依ってるって意味でさ。