信頼の経済

お人好し過ぎるくらいに親切な男が無償のつもりで親切を続けているとそれを見ていた彼女に怒られる。理由を聞くと、ここにいる人は等価交換を旨としているから、無償の行いは返せない借りを無理矢理に貸し付けられたようなもので、非常に気持ちが悪く、それどころか侮蔑にさえ感じられる行為であるし、現に親切を受けた人に聞いて回ってみたところ、彼らはそれを無償とは思っておらず、貸しの一つであると認識していたのでとても驚いていた、云々。それを聞いて反省した主人公は、相手に不快な気持ちを抱かせてまで親切を押しつけたいわけではないので、以後は貸しの一つとして行動するようになる。その10話くらい後。主人公が彼女のために陰で奔走して、今まで親切にした人たちにお願いして頼みを聞いてもらう話がある。そこでは今まで親切にされた人たちは喜んで借りを返す。当たり前じゃないか、僕たちの仲なんだからと言わんばかりに。
今まで、貸し借りとか古い慣習超面倒くさいんですけどー、ていうか意味わかんないんですけどー、くらいとしか思ってなかったんだけど、上の話を見て考えが変わった。金を回すことで規模が大きくなっていくみたいな話あるけど、貸し借りもそれと一緒で、貸しを作り返して貰い、借りを作り返していくことで、徐々に相互の信頼関係を深めていくための道具みたいなもなんだろうなあって。
aさんとbさんの間での、難易度レベル1から10までの、やり取りを考える。信頼関係も何もないところでいきなり、レベル10のお願いなんて、信頼できるかどうかわからない相手なんだから、受けられるわけがない。だから地道にレベル1からの交流が始まる。レベル1の貸し付けを無事に返済してもらうことで実績が生まれる。1を無事に返済できる程度の能力だと。すると今度はもう少しレベルの高いお願いも聞いてもらえる。信頼関係のない相手からのレベル3はリスクが大きくとも、レベル1を返済できる能力がある相手からのそれならば、それほどリスクは大きくないから受けるかもしれないように。そういった具合に徐々に規模を大きくしていく。
難易度とか能力って例にしちゃったからちょっと違うけど、基本的にはそんな感じじゃないのかな。信頼関係のない相手に対しては一般的なお願いしかできないけど、交流を重ねて信頼関係を深めていけば、親しい人の間でしかできないような交流が可能になる。難しいことにしろ恥ずかしいことにしろ。そうして信頼関係を深めていくためのツールの一つが、貸しであり借りである、と、そんな感じなのかなあっと。いやでもまあ面倒なことに変わりはないんだけどね。価格交渉やめて定価販売にしたように、貸し借りもなくなっちまえばいいのにと思うくらいに、面倒くさい。