偽善

未だにいまいち定義がよくわかんないけどこの前読んだ本に載ってた言葉がちょっと面白かった。「偽善を恐れるな」それをベースに考えるとこんな風にも言えたりするんじゃないのかな。「偽善」という言葉に恐れるのが偽善、恐れずに続けた行いが善である。言えねえか。


善と言えば面白い話があった。似てるのか未来なのか、あるいは両方なのか、いずれにしても日本に似た世界の話。そこではスラムを遥かに超えた、ヨハネスブルクを煮詰めに煮詰めたような区域が街の外れに存在してて、街に住んでる人達は早く潰せよあの区域、あんなゴミ共駆除しろよって感じだけど、区域の人間を助けるために入った人権団体の人間も犯して殺して身ぐるみ剥ぐような、凶暴にも程があるのが集まっているので犠牲者やら何やらの理由で潰すには至っていない。
さて、そんな区域のクズとは住む世界が違う、上流階級のお嬢様なんかはそんな区域のことを微塵も知らない。ある日、そんなお嬢様の中でもちょっと変わったお嬢様が、街中で物珍しい屋台の食い物を食している時に、その区域から湧いて出てきたガキに食い物を横からかっさらわれる。お嬢様は怒って追いかける。追いかけているうちに、中心から端へ、端から外れへ、外れから区域へと、来てしまう。若い女なんか人格が消し飛ぶまで犯される危険地帯。普通なら外れすらにも近寄らない。でもお嬢様は知らないから来てしまう。
そこでガキを捕まえたお嬢様は説教する。人の物を盗むのはいけないことだよ、と。そこへガキの親登場。お嬢様は当然親にも説教する。盗みはいけない。お金をあげなさい。父親は途惑う。区域の人間だっていうだけで石を投げられ迫害されるのに働けだ?何言ってるんだ、こいつ。働けばお金が貰える。当たり前でしょ?そう続けるお嬢様に父親激怒。周りに集まっていたクズ共も激怒。世間知らずのお嬢様に現実を教えてやれと言わんばかりに犯しにかかる。
が、お嬢様は強かった。どこぞの古武術を継ぐ孫娘らしく超強い。じゃすてぃすぱーんち、じゃすてぃすきーっくとノリノリでクズ共をフルボッコ。で、締めの一言。正義は勝つ。悪は滅びる。これからは悪いことしちゃ駄目だぞとガキに諭す。当然ガキは怒る。怒るがお嬢様は強いので何もできない。溢れる涙を止めることすらできやしない。悔し涙が止まらない。ガキは怒鳴る。泣き散らし怒鳴り散らし叫き散らす。どうしては俺は、どうしてお前は、どうして世界は。や、そんなん言ってなかったけど。でもまあ、泣いて怒鳴るガキにお嬢様困惑。あれ?こんなはずじゃ?そんな感じでフェードアウト。


これの意地の悪い所はお嬢様は正真正銘の善意100%ってとこ。祖父の教えを、人の物を盗むのはいけないことというのを伝えたかっただけであって、イヤミとかそんなんじゃなく、純粋に知らなかっただけ。だから、そもそも働けないとか、食う物がないとか、そんなんはまるで知らない。お嬢様からしたら人の物を盗んだ子供を叱り、それを許容する親を叱った正義の味方。そして言ってることも間違っちゃいない。だけど現実は働く場所も食う物も何もない迫害されている人間達を千切っては投げ千切っては投げでフルボッコ。それを見せられるこっちときたらもう。
お嬢様が嫌なやつだったら話は簡単。お嬢様が悪い。区域の人間が自業自得だったら話は簡単。区域の人間が悪い。でもどちらでもない。様々な情報を踏まえた上での価値観でのぶつかり合いなんかでもない、ただの弱い物いじめ。弱い物いじめではあるんだけど、どちらに非があると言ったら間違いなく盗みを行った区域の人間に非はある。が、盗みを行わざるをえない状況に彼らを追い込んだのは誰かと考えると、区域の人間が無条件に悪いなんて言えない。政治の問題。経済の問題。ブルジョワ側の問題っちゃ問題なんだけど、じゃ、お嬢様に非があるのかっつったら、そういうわけでもない。うーん。


とまあ、そんな感じで面白かった。善やら偽善やらの話書こうかと思ってたんだけど、思ってた以上に長くなったから終わり。長いよ。