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「ねえ、先生。それであなたはどう答えるんです?」
「それは……。これだけじゃ答えられませんよ。その寺ではどういった教えを説いていたのかとか――」
「そんなことが聞きたいんですか?本当に?まあいいでしょう、先生。お望みのようですから教えて差し上げましょう。なに、よくある話ですよ。その寺は生臭坊主の住処で寺で見るよりも下の町にある酒場でよく見るような坊主です。豪華な僧衣で誤魔化しているつもりだが、そのだらしない、肝臓をわるくした人間に特有の黄みがかった顔色と、あのにやけた表情を見れば、ろくに経文も知らないことはすぐに知れるような、そんなやつですよ」
「その……老女の人となりとか――」
「わかりました、わかりました。先生がご満足するまでお話させて頂きますよ。とはいっても、大してお話することなんて本当にないんです。一言で言えば、無知で愚かで哀れなただの、本当にただの老女ですよ。信心深いという人もいますがね、私から言わせてもらえば考えることをやめただけの、ただの哀れな人形です。あんな見るからに胡散臭い、良い評判などひとつも聞かないような坊主を疑いすらしないのは美徳どころかただの悪徳。真っ当な人間としての思考を放棄した人形でしかありません。家族に先立たれた結果、彼女が生きた証は何もありはしません。親も旦那も子もすでになく、彼女の長年の労働の結晶である付加価値も生臭坊主が酒とともに飲んで小便として土に流れてしまいました。彼女が生きた証といえるものといえば、唯一、あのむにゃもにゃむにゃもにゃと唱えたインチキ念仏だけです。その念仏も正式なものでもなんでもなく、南無阿弥陀仏ですらなく、二日酔いの坊主がおもしろがって教えただけのインチキです。さて、先生。このくらいでよろしいですかね。ねえ、先生。わたしは意地悪をする気はないんですよ。先生が望むのならばいくらでも語りますよ。村の状況、評判、世相、風習、風俗、宗教、歴史、風土、気候、その他諸々の詳細を連ねることは可能です。可能ですけど、先生。そんなことは大した問題じゃないってことはよくわかってらっしゃるでしょう?わたしはただ聞かせてほしいだけなんですよ。ねえ、先生。それであなたはどう答えるんです?」